音声科学 授業
授業概要
本講義は、音声について以下の3つの問題を設定し、それに答える材料を提供する形で進める。
(1)音と音声信号の物理的実体:
音声の正体である「音」というものの実体はどのようなものなのか。
(2)音声工学の概要:
音声は、情報をどのように音響信号として伝え、そしてそれはどのような分析方法で工学的に捕らえられるのか。
(3)MRI装置を用いた音声研究:
体の様々な断面を撮像する装置(MRI)を用いて、音声の生成や知覚のメカニズムを解明することは出来るのか。
■到達目標
(1)実体の見えない音声についてその性質の理解を深め、音声をより身近なものに感じられるようになる。
(2)理系文系問わず、音声を「科学」として捉えることの重要性を認識し、感覚だけではなく理屈で理解する力が身につくとともに、今後の各自の研究活動への応用に興味がわくようになる。
(3)受動的に教えられるだけでなく、自分で考え、自発的に勉学に取り組む姿勢が身につくようになる。
授業計画
【4/8、4-5-6講】
01 音声科学のイントロダクション(渡辺+カラン)
講義進行のオリエンテーション。「音声科学」研究の背景および関連分野との関連について概説する。また音のしくみについて簡単な紹介を行う。
02 音響工学と音声分析の俯瞰(渡辺)
音声科学の基本の理解に必要な程度の数学(三角関数と対数)をおさらいし(難しい計算は扱わない-下記「備考 Other Comments」を参照)、音声分析手法についての簡単なイントロダクションを行う。
03 音声生成・知覚のメカニズム(カラン)
構造的・機能的MRI実験、発話(音声生成)・聴覚(音声知覚)器官について簡単な紹介を行う。
【4/22、4-5講】
04 音とは何か・音の伝わり方(渡辺)
音の物理的実態についての説明と音の伝わり方についての解説を行う。特に波としての音の性質の理解を深め、音声を身近なものとして認識する。
05 音の速さ・音の強さ・音の⼤きさ(渡辺)
音速についての簡潔な説明と音圧レベルについての解説を行う。 音の強さの表し方と、物理的な音の強さと人が感じる音の大きさの違いについて説明する。
【5/13、4-5講】
06 周期と波長・音の共鳴(渡辺)
音声の言語的特徴を表現する鍵であるフォルマントの理解に向けて、その基礎となる音の共鳴について図解する。
07 純音、複合音、周期音およびスペクトル(渡辺)
音声分析の基本概念である純音、複合音、周期音およびスペクトルの基本的な解説を行う。
【5/27、4-5講】
08 フォルマント(渡辺)
音声から言語的特徴を獲得する鍵となるフォルマントに関して、音声スペクトル表現の立場から説明を行う。
09 音声分析の概要(渡辺)
スペクトル計算のための数学的基礎であるフーリエ解析について概説した後、 音声分析の汎用的手法(サウンドスペクトログラムや線形予測分析)について紹介する。
【6/10、4-5講】
10 音声生成のしくみ(カラン)
発話器官の各部の名称と働きについて、解剖学的な知見に基づいて解説する。
11 音声生成の脳内メカニズム(カラン)
症例研究・機能的MRI研究から、音声生成に携わる脳の部位・メカニズムを解説し、理解を深める。
【6/24、4-5講】
12 音声知覚のしくみ(カラン)
聴覚器官の各部の名称と働きについて、解剖学的な知見に基づいて解説する。
13 音声知覚の脳内メカニズム(カラン)
症例研究・機能的MRI研究から、音声知覚に携わる脳の部位・メカニズムを解説し、理解を深める。
【7/8、4-5講】
14 多感覚音声知覚の脳内機構(カラン)
視覚と聴覚といった複数の感覚処理が音声知覚に与える影響を、錯覚現象(例、マガーク効果、腹話術効果)から検証し、機能的MRI実験によりその脳内メカニズムを解明する。
15 外国語音声生成・知覚の脳内機構(カラン)
日本語と外国語の音韻体系の違いを説明するとともに、機能的MRI実験を通して“なぜ外国語の発音や知覚が難しいか”について脳科学的に解説する。
参考書
中村 健太郎 『図解雑学 ⾳のしくみ』 (ナツメ社) 978-4816339172
⽇本⾳響学会 編 『⾳のなんでも⼩事典』 (講談社 ブルーバックス) 978-4062571500